2008年06月15日

『FRAGILE』

川本真琴
★★★★★
■00年4月(26歳)■7thシングル/『gobbledygook』9曲目
■最高位17位(シングル9枚中7番目)
■ファン人気◆◇◇ ■ライブ頻度◆◆◇

2001年1月、『fragile』という曲がチャート1位を飾った。
1996年にデビューしたELT17枚目のシングルとなるこの曲は、今もなお彼女たちの代表曲として名を残す。
そもそも2000年の邦楽シングルは、サザン『TSUNAMI』、福山雅治『桜坂』、浜崎あゆみ『SEASONS』をはじめ、珠玉のバラード曲が多く生まれた年であった。“バラード”の本質を“感傷”に求めるのであれば、まさにこれらの楽曲は恋人への感傷に満ちあふれたものであった。
しかし、2000年から2001年の邦楽を概観して、こうした“トップアーティスト”の感傷がやや浅薄に感じてしまうのは、表題の楽曲を知る“我々”にとって幸でもあり不幸でもあろう。


2000年4月、『FRAGILE』という曲がチャート17位を飾った。
1996年にデビューした川本真琴7枚目のシングルとなるこの曲は、今もなお我々をとまどわせ、よろめかせている。

ところで、このタイミングで岡村靖幸が再び現れた経緯についてはよくわからない。
2000年前後に旺盛な楽曲提供をしていた岡村靖幸からのアプローチの可能性もあるし、デビュー5年目を迎えた川本真琴が何らかの転機を求めた可能性もある。
結果的にこの曲が後の川本真琴に大きな影響をもたらしたとは決して言えないものの、“川本真琴が変わった”というとき、その決定的なターニングポイントを『FRAGILE』に認めることに異論はないだろう。(髪の色も変わったし。)

それにしても、この二人の呼吸に対しては嘆息するしかない。
それぞれの呼吸がシンクロし増幅する稀有なダイナミズムが『愛の才能』に続いて発揮されたことは、“運命の出会い”とさえ言っていいのではないか。
岡村靖幸が得意とする“甘く切ない”メロディを、川本真琴はしっかりと抱き締め、丁寧に言葉をのせていった。
『FRAGILE』の詞はわかりやすく羽のように軽く、それによって繊細なメロディは壊されない。一方で、「壊れた かけらで」や「そっと唄う どんな口唇からも」などにみられるように、節の冒頭音(こ、か/そ、ど)が強調して歌われることで、メロディがより深みを増していく部分もある。
メロディと詞の幸福な出会いである。

そして、川本真琴の歌声である。
たどたどしくも力強いその歌声。
その歌声を発する小さな身体が向き合ったのは、『愛の才能』では私的日常であったが、『FRAGILE』では私的世界にまで拡がっており、その精神はもはや紛れもなくロックでありあるいはパンクなのである。
そうした精神を秘めた歌声によって、この曲は単なるバラードで終わることを免れた。
歌も一種の説得である以上、歌い手が選ばれる歌は厳然と存在し、この曲もそのひとつなのである。(5分47秒からの全身の毛穴が開くような“叫び”を、いったい他の誰に任せられる?)
さらに、甘く切ないメロディと(L.A.産の)ストリングス中心の編成が、かえって彼女の反抗精神を際立たせている妙味。


前述のように、歌詞はわかりやすくストレートなのが印象的である。
節のひとつひとつが文字通り『FRAGILE』(=もろさ、はかなさ)な断片であり、そんな断片がそっと重ねられていく。
そしてその不確実な世界の真ん中に立ち尽くす、もっとも『FRAGILE』な自分。
しかし、そこからは悲しみや不安は感じられない。
まして凡百な人間がしばしば陥る「でも頑張るぞ」的な“逃げ”などもない。
主人公は『FRAGILE』な断片への愛おしさに包まれながら、ただ従容として裸で世界と向き合う。
筆者はこの姿勢に、彼女の表現者としての誠実さを感じるし、26歳を迎えた彼女のたしかな成熟に敬服するのである。

posted by 鹿鱈 睦馬 at 02:36| Comment(1) | TrackBack(0) | 評論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
有賀啓雄のベースが際だっていると思います。
いわゆる「リズム隊」の役割を軽々と飛び越え、岡村靖幸の名旋律にすばらしい陰影を添えています。

King Size Bedroom Tour の歌唱も白眉ですね。ベースの清水玲は岡村のアレンジ・有賀の演奏に深い尊敬の念をもってなぞっているように感じます。
Posted by m at 2013年08月31日 22:53
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